この記事では、救急現場で行われる活動「状況聴取」について解説しています。
SAMPLEという語呂合わせは知っていても、現場でスムーズに聴取できているかどうか自信を持って答えられる隊員は少ないかもしれません。
この記事では、状況聴取の基本項目・情報源別の聴取方法・状況別の対応を整理します。
新人救急隊員はもちろん、PA連携で先着した消防隊員にも役立つ内容です。
状況聴取は、全身観察・バイタルサイン測定と分担・並行して進める活動です。
観察の手順や救急活動の全体の流れ、他の活動については↓記事から確認してください。
\まとめ記事/
\詳細記事/
- 執筆者|救急隊(救急救命士)を10年以上、現役で活動中
- エビデンス|各参考資料(末尾に記載)
免責事項:本記事の内容は、消防吏員(救急隊員など)向けに一般的な知識の提供を目的としています。
実際の対応は必ず所属機関の運用基準・指示に従ってください。
他の医療従事者(医師・看護師など)が病院内で行う行為と一部記述に差異(簡略化など)がある箇所がありますのでご了承ください。
※各MCプロトコール・活動する環境(人数含む)・資格による行える処置・使用できる資機材等のため
それでは、共に学びましょう!
状況聴取とは
状況聴取とは、救急現場で傷病者や関係者(家族・通報者など)から、発症の経緯(現病歴)や傷病者の背景情報を聴取する活動です。傷病者への聴取は一般に問診とも呼ばれますが、救急活動では本人以外の情報源も含めて、広く聴取する必要が多くなります。
主な目的は以下の3点です。
- 傷病者の病態把握
- 適切な処置の判断材料を得る
- 搬送先医療機関の選定に活用
たとえば「胸痛」という主訴だけでは、疾患の推測が難しい場面があります。「いつから」「どんな痛みか」「何をしているときに起きたか」といった情報が加わることで、病態の絞り込みに役立つ情報が増えます。
救急活動フローにおける位置づけ
状況聴取はハブ記事(救急活動の流れ)内の STEP 5 に相当します。
全身観察・バイタルサイン測定(STEP 3〜4)と分担・並行して進めることを推奨します。
STEP 1 状況評価
STEP 2 初期評価
STEP 3 全身観察+詳細観察 ┐
STEP 4 バイタルサイン測定 ├─ 各隊員で分担・同時進行
STEP 5 状況聴取 ┘
STEP 6 病院選定
STEP 7 病院交渉
STEP 8 搬送+継続観察
STEP 9 医師引継ぎ
STEP 10 引き揚げ
なお、心肺停止など生命の危険が切迫している場面では、状況聴取より処置を優先します。聴取のタイミングは傷病者の状態に応じて判断します。
状況聴取の全体像:問診と現場状況の聴取
状況聴取は、大きく2つの活動に分けて考えると整理しやすくなります。
- 問診(傷病者・家族への病歴聴取):TOSS/OPQRST/SAMPLE/GUMBA といったフレームワークを使う
- 現場状況の聴取(通報者・目撃者・関係者・現場環境):発症の経緯や倒れる前の様子を集める
問診で使うフレームワークは、それぞれ役割が異なります。
| 項目 | 何のためのものか | 主な対象 |
|---|---|---|
| TOSS | 主訴の解析の4本柱(時間経過・発症様式・状況・重症度)。痛みは PQR を追加 | 傷病者 |
| OPQRST | 主訴(症状)の性状を深掘りする。TOSS は、この中から本質的な4つを取り出した整理 | 傷病者 |
| SAMPLE | 病歴・背景を網羅的に聞く(英語圏由来の語呂合わせ) | 傷病者・家族 |
| GUMBA | 病歴・背景を網羅的に聞く(日本の現場で使われる語呂合わせ) | 傷病者・家族 |
TOSS と OPQRST は主訴の解析に、SAMPLE と GUMBA は背景・病歴の網羅に使います。OPQRST に慣れている場合は、TOSS の代わりにそのまま使って構いません。
SAMPLE と GUMBA はどちらも「病歴の網羅」を目的とした語呂合わせで、項目はほぼ対応します。そのため、どちらを使っても概ね問題ありません。SAMPLE の S(症状)と E(発症時の状況)は、主訴の解析で聞く内容と重なります。
聴取の流れ
聴取は、次の順序で進めると漏れが出にくくなります。【標準的見解】(森川 第1版 問診の流れ p.57〜59)
- バイタルサインの確認:異常があれば、そちらの対応を優先する。バイタルから主訴が決まることもある。
- 開かれた質問:「どうされましたか?」と聞き、話を聞く姿勢を伝える。
- 主訴の決定:鑑別を絞りやすい症状を選ぶ。
- 主訴の解析:TOSS(痛みは PQR を追加)。
- 背景の把握:患者背景・既往歴・内服薬・飲酒・喫煙・アレルギーなど。
- 鑑別の想起と追加の聴取:最悪の病態を考え、主訴別の枠組みで整理し、想起した病態に沿って追加で聞く・観察する(詳細は後述)。
- 1文にまとめる:聴取した内容を整理して伝える。
聴取の入口:主訴を決める
TOSS や SAMPLE に入る前に、まず主訴を決めます。主訴が決まると、最初に想起する病態の方向性が定まり、続く聴取の項目も絞れるためです。
救急隊員は確定診断をしませんが、主訴の置き方で鑑別の方向が変わる点は同じです。
①最初はオープンクエスチョン(開かれた質問)で聞く
- 最初は「どうされましたか?」と開かれた質問で始め、まず話してもらう。
- 話してもらうほうが情報量が多く、信頼関係の形成にも役立つ。
- 聞き手が苛立つと傷病者が話しにくくなり、大切な情報を聞き逃すことがある。
最初の30秒は傷病者の話をじっと聞く、という考え方があります。【標準的見解】(森川『フレーム法で、もうコワクない 総合内科 ただいま診断中!』第1版 主訴の決定 p.2〜3)
ただし、バイタルサインが不安定な場面や緊急性が高い場面では、聴取を最小限にして処置・搬送を優先します。
②主訴の定義を意識して聞く
同じ「意識がない」でも、定義によって想起する病態の方向性が変わります。
- 失神:脳血流の低下による、数分以内の意識消失発作と筋トーヌスの消失。意識は数分以内に完全に清明に戻る。
- 意識障害:意識が完全には戻らない。
傷病者は「失神です」とは言ってくれないため、聞き手が定義を意識して「意識はいつ、どこまで戻りましたか?」と確認します。【標準的見解】(森川 第1版 p.3〜5)
③傷病者の言葉を鵜呑みにしない
傷病者の訴えを医学的な言葉に置き換えると、鑑別を調べやすくなります。
一方、置き換えを誤ると、その言葉に引っ張られて見立てがずれます。
- 例:「動けなくなった」を筋力低下と決めつけない。高熱でしんどいだけかもしれず、膝の痛みで動けないのかもしれない。
- 「なぜ動けなくなったのか」を突き詰めて聞く。
- 置き換えに自信がなければ、傷病者の言葉のまま記録し、そのまま伝える。
【標準的見解】(森川 第1版 p.5〜8)
④鑑別を絞りやすい症状を主訴にする
症状が複数あるときは、鑑別を絞りやすい症状を主訴にします。
- 絞りやすい主訴(high yield):呼吸困難など。心臓・肺・貧血の3方向で整理できる。
- 絞りにくい主訴(low yield):全身倦怠感など。感染症・電解質異常・悪性腫瘍・心血管疾患・薬剤性・内分泌疾患など、方向が多岐にわたる。
「だるい」に呼吸困難が伴うなら、呼吸困難を主訴に置くほうが絞りやすくなります。
主訴は一度決めたら終わりではありません。聴取を進める中で、より絞りやすい症状が見つかれば置き換えます。【標準的見解】(森川 第1版 p.5〜9)
バイタルサインも主訴の決定に使えます。血圧が低下していればショック、SpO2 が低下していれば呼吸困難、高体温なら発熱を主訴にして考えます。
バイタルサインが崩れていれば、聴取よりそちらの対応が先です。【標準的見解】(森川 第1版 問診の流れ p.57)
問診①:主訴を解析する(TOSS/OPQRST)
主訴が決まったら、その主訴を解析します。解析の枠組みが、TOSS と OPQRST です。
まず TOSS の4つを確認し、痛みの場合は PQR を足します。
①TOSS:主訴を解析する4本柱
| 頭文字 | 項目 | 確認すること |
|---|---|---|
| T | Time course(時間経過) | 増悪か改善か・持続か間欠か・症状が出た順番 |
| O | Onset(発症様式) | 突然か、急にか、徐々にか |
| S | Situation(状況) | 発症した状況・悪化する状況・改善する状況 |
| S | Severity(重症度) | 症状の強さ・日常生活への影響 |
【標準的見解】(森川 第1版 p.10〜11)
Time course:時間経過
- 増悪傾向の症状は危険、改善傾向の症状は一安心と考える。
- 持続する痛みも重大な疾患を示唆する。ただし狭心症など血管の問題は例外。
- 間欠的で痛みがゼロになる腹痛は、蠕動痛を示唆する。
症状が出た順番も情報になります。
たとえば虫垂炎は腹痛が先で嘔吐が後に出やすく、ウイルス性の胃腸炎は嘔吐が先で腹痛が後に出やすいと言われています。【標準的見解】(森川 第1版 p.11〜13)
聴取した経過は時系列で記録します。「4時間前から心窩部痛、3時間前から悪心・食欲不振、1時間前に痛みが右下腹部へ移動」のように書くと、経過が一目で分かります。症状が「ない」場合は、ないとだけ記録します。
Onset:発症様式
突然発症(Sudden onset)は危険な疾患を示唆します。【標準的見解】(森川 第1版 p.14〜16)
「突然始まりましたか?」と聞くだけでは、突然ではなくても「突然」と答える人がいます。次の聞き方で確かめます。
- 症状がない状態から、数秒以内に最強になったか。
- 発症した瞬間に何をしていたか言えるか。
- 頭痛なら、バットで殴られたような痛みか。
突然発症の痛みは、まず血管系の疾患を考えます。
腹痛では「詰まる・破れる・捻じれる・裂ける」の4つの機序で整理できます。
Situation:状況
次の3点を確認します。
- 誘因:どういう状況で発症したか
- 増悪因子:どういう状況で悪化するか
- 寛解因子:どういう状況で改善するか
悪化と改善に再現性があれば、所見はより特異的になります。再現性は必ず確認します。
- 労作で繰り返し増悪し、安静で改善する胸痛 → 労作性狭心症を考える
- 起立後に起きた失神 → 起立性低血圧を考える
- 労作やいきみで発症した頭痛を伴う失神 → くも膜下出血を疑う
- 寝返りなど頭の動きで起きるめまいで、じっとしていると1分以内に改善する → 頭位変換性めまい(BPPV)の可能性が高い
【標準的見解】(森川 第1版 p.17〜19)
Severity:重症度
- 日常生活に支障が出るほどの症状は重症と考える。
- めまいでは、歩けるかどうかを確認する。歩けないめまいは平衡障害を示唆し、中枢性の可能性を否定できない。
- 痛みは10点満点の痛みの強さ(ペインスケール)で聞く。10点の痛みや「人生で最悪の痛み」は重症な疾患を示唆する。
頭痛では、「人生で最悪」「増悪傾向」「突然発症」の3つがすべてなければ、緊急性のある頭痛には否定的という報告もあります。この3つは、聴取で必ず確認します。【標準的見解】(森川 第1版 p.19)
痛みは PQR を足す
痛みの場合は、TOSS に次の3つを足します。
- Position(場所):痛みの原因が解剖学的にどこにあるかを考える手がかりになる
- Quality(性状):締めつけられる痛みか、鋭い痛みか、拍動する痛みか
- Radiation(放散):どこへ広がるか
性状や放散は、疾患を絞る手がかりになります。たとえば両腕に放散する胸痛や、拍動性の頭痛です。【標準的見解】(森川 第1版 p.19〜21)
主訴ごとの読み方は、胸痛が 【臨床推論】胸痛の鑑別と対応:緊急度・重症度別レッドフラッグ|救急現場視点、頭痛が 【臨床推論】頭痛の鑑別と対応:緊急度・重症度別レッドフラッグ|救急現場視点 で扱っています。
②OPQRST:痛みを構造化する
TOSS の要素に、増悪・寛解因子や随伴症状を加えて並べたものが OPQRST です。TOSS は、その中から本質的な4つを取り出した整理といえます。OPQRST の各文字の当て方は文献により異なります。本記事では次の表の整理を使います。
| 頭文字 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| O | Onset(発症様式) | いつから・突然か徐々にか・発症時の状況 |
| P | Provocation / Palliation(増悪・寛解) | 何をすると強くなる・楽になるか |
| Q | Quality(性状) | どんな症状か・痛みの性質 |
| R | Region / Radiation / Related symptoms(部位・放散・随伴症状) | どこが・どこへ広がるか・随伴症状の有無 |
| S | Severity(程度) | 症状の強さ(NRS 0〜10など) |
| T | Time course(時間経過) | 持続的か・波があるか・変化 |
ここで聞いた内容は、次の SAMPLE の S(症状)と E(発症時の状況)に当たります。主訴を解析してから背景を聞く順序にすると、聴取に漏れが出にくくなります。
胸痛・腹痛・頭痛など「痛み」を主訴とする場面で特に有効です。
問診②:背景を網羅する(SAMPLE/GUMBA)
主訴を解析したら、背景と病歴を漏れなく聞きます。SAMPLE(サンプル)という語呂合わせで整理された6項目が用いられます。
| 頭文字 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| S | Symptoms(症状) | 主訴・発症時刻・程度・変化 |
| A | Allergies(アレルギー) | 薬物・食物・その他 |
| M | Medications(内服薬) | 薬の名前・種類 |
| P | Past medical history & Pregnancy(既往歴・妊娠) | 既往疾患・手術歴・入院歴・妊娠の有無 |
| L | Last oral intake(最終経口摂取) | 最後に飲食・服薬した時刻・内容 |
| E | Events(発症時の状況) | 発症時に何をしていたか・経緯 |
S:症状(Symptoms)
主訴・発症時刻・程度・変化を確認します。主訴の決定と解析は、前節までのとおりです。
主訴は傷病者自身の言葉のまま記録し、病院交渉などでは必要に応じて医療的主訴に変換します。
A:アレルギー(Allergies)
病院での治療内容に影響するため、確認される項目です。
- 薬物アレルギー(抗生物質・造影剤など)
- 食物アレルギー
- その他のアレルギー
質問例:
- 「薬や食べ物でアレルギーはありますか?」
- 「過去にアレルギー反応が出たことはありますか?」
「アレルギーはない」という回答も記録します。
薬と食べ物は分けて聞きます。「あります」と答えた場合は、何のアレルギーで、どんな症状が出たかを具体的に確認します。聞いてみると、アレルギーではないこともあります。【標準的見解】(森川 第1版 p.32〜33)
M:内服薬(Medications)
傷病者が普段服用している薬の確認です。
- 薬の名前・種類
- 服薬期間
質問例:
- 「普段、何か薬を飲んでいますか?」
- 「お薬手帳はありますか?」
お薬手帳がある場合は病院へ持参します。抗凝固薬(ワーファリン・DOACなど)は出血リスクに関係するため、特に有用な情報です。薬の名前が不明な場合は「血圧の薬」「糖尿病の薬」など薬効の大まかな確認でも情報として活用できます。
薬については、次の点も確認します。【標準的見解】(森川 第1版 p.27〜28)
- お薬手帳の記載と、実際に飲んでいる薬が食い違うことがある。
- 市販薬・サプリメントも確認する。
- 最近始めた薬だけでなく、中止した薬にも注意する。急な中止で、離脱や悪性症候群などのリスクがある薬がある。
- 以前から飲んでいる薬も、有害事象の原因になりうる。高齢者では、ジギタリス・血糖降下薬・抗血小板薬・抗凝固薬による救急受診が多い。
P:既往歴・妊娠(Past medical history & Pregnancy)
現在の病態に関連する背景情報です。
- 過去の疾患(高血圧・糖尿病・心疾患・脳血管疾患など)
- 手術歴・入院歴
質問例:
- 「どこかに通院していませんか?」
- 「健診で異常を指摘されたことはありませんか?」
- 「入院したことはありますか?」「手術を受けたことはありますか?」
「何か病気をしたことはありますか?」だけでは、高血圧や糖尿病などの慢性疾患を病気と認識せず、答えてもらえないことがあります。通院・健診・入院・手術の4つに分けて具体的に聞くと、漏れが減ります。【標準的見解】(森川 第1版 p.25〜27)
主訴に関連する既往歴(例:胸痛なら心疾患歴、腹痛なら尿路結石歴)は特に有用な情報です。同じ病態の既往があるだけで、その病態の可能性が上がることがあります。
L:最終経口摂取(Last oral intake)
- 最後に飲食・服薬した時刻
- 内容(必要に応じて)
質問例:
- 「最後に飲食をしたのはいつですか?」「薬は飲みましたか?」
手術・処置・全身麻酔が必要になった場合の判断材料として、医療機関側が必要とする情報です。食事だけでなく飲水や服薬も含めて確認するのが実務的です。低血糖の可能性がある場面では、飲食の有無が病態推測に役立つことがあります。
E:発症時の状況(Events)
発症時に何をしていたか、きっかけは何かを確認します。聞く内容は、前節の Situation(誘因・増悪因子・寛解因子)と同じです。
ただし、発症状況だけで疾患を断定することはできません。観察結果と合わせて判断が必要です。
追加で聞く:患者背景・生活歴
同じ症状でも、年齢や生活の状況で想起する病態が変わります。SAMPLE の6項目に加えて、次の点を聞きます。【標準的見解】(森川 第1版 基本情報の把握 p.23〜25)
- 年齢と性別:最初に確認する。
- 高齢者:ADL(着る・食べる・歩く・トイレ・入浴)、認知機能、要介護度、施設入所やデイサービスの利用、家族構成、キーパーソン。
- ADL の目安:食事が常食で、トイレに一人で歩いて行けるなら、最低限の ADL は確保されている。
- 認知症がある場合は家族に、施設入所中なら施設職員に聴取する。
- 若年者:職業。たとえば幼稚園の先生は、子どもと接する機会が多く、感染症のリスクが高くなる傾向がある。
- 食事の摂取量:重症度の判断材料になる。
- 女性:月経歴も確認する。【標準的見解】(森川 第1版 p.58)
飲酒・喫煙も確認します。【標準的見解】(森川 第1版 p.28〜32)
- 飲酒:量・酒の種類・頻度を聞く。飲酒量は過小申告されやすい点に注意する。
- 喫煙:1日の本数×年数で確認する。
発熱など感染症が疑われるとき:STATES
感染症が疑われる場面では、次の6項目を追加で聞きます。他に、食事歴と野外活動歴も重要です。【標準的見解】(森川 第1版 p.33〜34)
| 頭文字 | 項目 | 確認すること |
|---|---|---|
| S | Sick contact | 病気の人との接触 |
| T | TB contact | 結核の人との接触 |
| A | Animal contact, intake | 動物との接触・摂取歴 |
| T | Travel history | 旅行歴 |
| E | Environmental exposure | 特別な環境への曝露 |
| S | Sexual contact | 性交渉歴 |
日本の現場で使われる語呂:GUMBA
SAMPLE は英語圏由来の語呂合わせですが、日本の救急現場では GUMBA(グンバ)という語呂も使われます。SAMPLE とほぼ同じ内容を、日本語で覚えやすくしたものです。
| 頭文字 | 項目 | 内容 | SAMPLEとの対応 |
|---|---|---|---|
| G | 原因 | 現病歴・受傷機転 | E |
| U | 訴え | 主訴・症状 | S |
| M | 飯(めし) | 最終経口摂取 | L |
| B | 病気 | 既往歴・服薬・かかりつけ病院 | P・M |
| A | アレルギー | 薬物・食物アレルギー | A |
GUMBA の項目立ては地域・所属機関によって細部が異なることがあるため、実際の運用は所属の基準を確認してください。
聴取の途中で鑑別を想起する:最悪を考え、主訴別の枠組みで整理する
聴取は、集めた情報から病態を想起しながら進めます。想起した病態に沿って、次に聞くことや観察することが決まるためです。救急隊員は確定診断をしませんが、見逃してはいけない病態を外さないために使います。【標準的見解】(森川 第1版 Think worst scenario フレーム法 p.36〜47)
①最悪の病態を先に考える(Think worst scenario)
救急では、最悪の病態を考えて、それを除外していく考え方が基本です。
たとえば胸痛では、次の5つ(5 killer chest pain)を見逃さないことが大切です。
- 急性冠症候群
- 大動脈解離
- 肺塞栓
- 緊張性気胸
- 食道破裂
②主訴別の枠組み(フレーム)で整理する
見逃してはいけない病態は、丸暗記では出てきにくいものです。主訴ごとに枠組みを作っておくと、漏れが減ります。
呼吸困難は、肺・心臓・貧血の3つで整理します。
- 肺:肺炎・COPD・肺塞栓
- 心臓:心不全・心筋梗塞・弁膜症
- 貧血:消化管出血など
失神は、心原性・起立性低血圧・脳血管性・神経介在性の4つで整理します。分け方の手がかりが、TOSS の Situation と Time course です。
| 分類 | 手がかり | 最悪を考える病態 |
|---|---|---|
| 心原性 | 前駆症状なく急に倒れる。臥位や労作時にも起こる | 不整脈・弁膜症・肺塞栓・急性冠症候群・大動脈解離 |
| 起立性低血圧 | 立ち上がったときに起こる | 消化管出血・異所性妊娠・卵巣出血・後腹膜血腫 |
| 脳血管性 | 労作やいきみで発症し、頭痛を伴う | くも膜下出血・一過性脳虚血発作 |
| 神経介在性(迷走神経反射) | 長時間の立位など。気分不快や冷汗の後に倒れる | (書籍では挙げられていない) |
枠組みは、TOSS で分けるものと、症状の有無(系統別の聴取)で分けるものがあります。失神は TOSS で、呼吸困難は系統別の症状で分けます。呼吸困難の場合は、次のような症状が手がかりになります。
- 心臓:起坐呼吸・夜間の呼吸困難・むくみ・体重増加
- 肺:咳・痰・血痰
- 貧血:血便・黒色便・血尿
TOSS で分ける枠組みのほうが鑑別を絞りやすく、系統別の症状で分ける枠組みのほうが作りやすいとされます。主訴の特性に応じて使い分けます。
枠組みは、頻度の高い主訴から自分なりに作り、現場で使いながら見直していくことが大切です。
情報源別の聴取方法
ここまでの SAMPLE・GUMBA・OPQRST は、主に傷病者・家族への問診で使うフレームワークでした。ここからは、状況聴取のもう一つの柱である現場状況の聴取(誰から情報を得るか)を整理します。状況聴取の情報源は主に4つです。
1. 傷病者
- 主訴や症状を直接確認できる点がメリット
- 意識レベルの低下・認知症・精神疾患がある場合は情報の正確性に注意が必要
2. 家族
- 既往歴・内服薬など背景情報が得やすい情報源
- 客観的な「普段との違い」を確認できる点がメリット
- 家族自身が動揺・興奮している場面では、具体的な質問(「お薬手帳はありますか?」「かかりつけの病院はどこですか?」)が有効
質問例:
- 「普段と様子は違いますか?」
- 「最近、体調が悪いとおっしゃっていましたか?」
3. 通報者・第三者
- 発見時の状況・客観的な情報が得られる情報源
- 傷病者の背景情報(既往歴など)は分からないことが多い
- 「発見したときの状況」「倒れる前の様子」の確認が中心になります
質問例:
- 「発見したとき、意識はありましたか?」
- 「呼吸はしていましたか?」
- 「倒れてからどれくらい経っていますか?」
4. 関係者(介護職員・警察官など)
- 介護職員からは施設での普段の様子・最近の変化が聴取できることがあります
- 警察官からは発見時の状況・事件性の有無などが確認できる場合があります
状況別の対応
意識がない場合
傷病者からの聴取が困難なため、家族・通報者からの情報収集が中心となります。
- 「倒れる瞬間を見たか」「倒れる前に様子がおかしかったか」
- けいれんの有無
- 発見から経過した時間
高齢者の場合
- 聴力低下がある場合は、ゆっくり・大きめの声での対応を検討
- 認知症がある場合は情報が不正確なことがあるため、家族・介護者からの並行確認が有効です
小児の場合
- 本人からの聴取が難しい場面が多いため、保護者からの聴取が中心となります
- 発熱・嘔吐・下痢・けいれんの有無が主な確認事項です
外国人の場合
- 翻訳アプリの活用、簡単な英語・身振り手振りでのコミュニケーションを検討
- 同行者がいれば通訳の協力が得られます
精神疾患・興奮状態の場合
- 安全確保を最優先とし、距離を保ちながら情報収集を行います
- 危険性が高いと判断した場合は、消防隊・警察への応援要請を躊躇しません
- 正対せず半身の姿勢を取るなど、自身の安全を確保しながら接触します
- 家族・施設職員・警察官からの情報収集が有効な場面があります
聴取の実務ポイント
質問の使い分け
| 質問タイプ | 特徴 | 活用場面 |
|---|---|---|
| 開かれた質問(「どうされましたか?」) | 自由に答えられる・詳細情報が得やすい | 聴取の導入・情報収集の初期 |
| 閉じられた質問(「痛みはありますか?」) | はい/いいえで答えられる | 意識レベルが低い場面・確認の絞り込み |
最初に開かれた質問で広く情報を収集し、その後閉じられた質問で具体的に確認していく方法や、緊急性判断に必要な質問を先にして、その後広く情報を収集するなど、状況によって使いわける必要があります。
記録
聴取した情報は記録しておくことで、医師引継ぎ時の正確な伝達につながります。
- 主訴・発症時刻・バイタルサイン・既往歴・内服薬・アレルギーが主な記録項目
- 小型メモ帳・略語(例:BP 130/80、HR 90、SpO2 98%)の活用
- 重要な情報は必要に応じて復唱することもあります
聴取した内容は、1文にまとめておくと引継ぎで伝えやすくなります。構成は「プロフィール(年齢・性別)+基本情報(既往歴・内服薬・飲酒・喫煙・アレルギー・患者背景)+TOSS(痛みは PQR を追加)+主訴」で、既往歴は必須です。【標準的見解】(森川 第1版 p.59)
時間
状況聴取にかける時間は傷病者の緊急度によって異なります。一般的には数分程度を目安としますが、緊急度が高い場面では最低限の情報のみ聴取し搬送を優先します。
MISTとの違い:聞く工程と伝える工程
現場で使う略語として MIST(ミスト)を耳にすることがありますが、これは状況聴取とは工程が異なります。
- 状況聴取(TOSS・OPQRST・SAMPLE・GUMBA):現場で情報を「聞く」ためのフレーム
- MIST(M:受傷機転/I:損傷部位・所見/S:バイタルなどの所見/T:実施した処置):集めた情報を医師へ「伝える」ための報告フォーマット
- ISBARC(I:報告者と患者の同定/S:状況/B:背景/A:評価/R:依頼・提言/C:復唱確認):引き継ぎを体系立てて「伝える」ためのフォーマット(原型は SBAR)
MIST は主に外傷、ISBARC は院内・チーム間の引き継ぎで用いられますが、いずれも情報を「伝える」ための枠組みで、状況聴取(聞く工程)とは区別されます。これらが活躍するのは状況聴取の段階ではなく、引継ぎ(STEP 9)の段階です。各フォーマットの詳細は医師引継ぎの記事で扱います。
よくある疑問
- SAMPLEの全項目を毎回確認する必要はありますか?
-
必ずしも全項目を毎回確認する必要はありません。傷病者の状態・緊急度に応じて優先する項目が変わります。緊急度が高い場面では主訴・発症時刻・アレルギー・内服薬など最低限の情報に絞って聴取し、搬送を優先します。
- 家族が動揺していてうまく情報が得られない場合はどうすればよいですか?
-
「はい・いいえ」で答えられる具体的な質問に切り替えることが有効な場面があります。「お薬手帳はありますか?」「かかりつけの病院はどこですか?」など、簡単に答えられる形に絞ることで、動揺した状況でも情報収集が進みやすくなります。
- 聴取内容が食い違うとき(傷病者と家族の証言が異なる)はどうしますか?
-
どちらの証言も記録し、医師引継ぎ時に「〇〇は本人から、△△は家族から聴取」と情報源を区別して伝えます。どちらが正確かの判断は医療機関側が行います。
- TOSS・OPQRST・SAMPLE・GUMBA・MIST はどう使い分けますか?
-
TOSS/OPQRST は主訴の症状を解析するツールで、SAMPLE の S と E に当たる内容を詳しく聞きます。SAMPLE と GUMBA は病歴・背景を漏れなく聞くための語呂合わせで、内容はほぼ同じです(英語圏の語呂か、日本の現場の語呂かの違い)。MIST は聞くためではなく、集めた情報を病院へ伝えるための報告フォーマットで、引継ぎの場面で使います。「症状の解析=TOSS/OPQRST」「病歴=SAMPLE/GUMBA」「伝達=MIST」と役割で覚えると混同しにくくなります。
まとめ
- 状況聴取とは:傷病者・家族・通報者から発症経緯・背景情報を収集し、病態把握と病院選定に活用する活動
- 聴取の入口:開かれた質問で始め、定義を意識して主訴を決める。傷病者の言葉は鵜呑みにせず、鑑別を絞りやすい症状を主訴に置き、聴取の途中で見直す
- 問診の枠組み:TOSS/OPQRST(主訴の解析。TOSS=時間経過・発症様式・状況・重症度、痛みは PQR を追加)→ SAMPLE/GUMBA(背景・病歴の網羅・症状/アレルギー/内服薬/既往歴/最終食事/発症状況)の順。MIST は聞く枠組みではなく引継ぎ時の報告フォーマット
- 基本情報:既往歴は通院・健診・入院・手術の4つに分けて具体的に聞く。薬は手帳・市販薬・サプリ・中止した薬まで確認する。高齢者はADL・認知機能・家族構成、感染症が疑われるときはSTATESを追加する
- 鑑別の想起:最悪の病態を先に考え、主訴別の枠組み(呼吸困難=肺・心臓・貧血、失神=心原性・起立性低血圧・脳血管性・神経介在性)で整理する
- 情報源:傷病者・家族・通報者・関係者を状況に応じて使い分ける
- 聴取の優先度:緊急度に応じて項目を絞り込む(全項目の網羅より迅速な対応を優先する場合あり)
- 記録:情報源を明記し、確認できなかった項目も記録・伝達する
実際の聴取内容・手順は所属機関の運用基準を確認してください。
参考資料
- PEMECガイドブック2023(日本臨床救急医学会)
- 救急救命士標準テキスト/救急標準テキスト
- 森川暢『フレーム法で、もうコワクない 総合内科 ただいま診断中!』第1版(中外医学社)

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