この記事では、救急現場で行われる活動「病院選定」について解説しています。
「二次 or 三次 or 専門」と搬送先病院を選定することは、救急現場で重要な活動のひとつです。病院選定の基準を体系的に整理しておくと、現場での判断がスムーズになります。
この記事では、病院選定の基本的な考え方・病院区分・選定時の主な考慮要素を整理します。
新人救急隊員はもちろん、隊長として搬送先を判断する立場の方の振り返りにも役立つ内容です。
病院選定は、観察・状況聴取で得た情報をもとに搬送先を決める工程です。
観察の手順や救急活動の全体の流れ、他の活動については↓記事から確認してください。
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- 執筆者|救急隊(救急救命士)を10年以上、現役で活動中
- エビデンス|各参考資料(末尾に記載)
免責事項:本記事の内容は、消防吏員(救急隊員など)向けに一般的な知識の提供を目的としています。
実際の対応は必ず所属機関の運用基準・指示に従ってください。
特に搬送先の判断は、地域の病院リストや所属機関のプロトコルによって運用が異なります。
他の医療従事者(医師・看護師など)が病院内で行う行為と一部記述に差異(簡略化など)がある箇所がありますのでご了承ください。
※各MCプロトコール・活動する環境(人数含む)・資格による行える処置・使用できる資機材等のため
それでは、共に学びましょう!
救急活動フローにおける位置づけ
病院選定はハブ記事(救急活動の流れ)内の STEP 6 に相当します。
- 状況評価
- 初期評価
- 全身観察+詳細観察
- バイタル測定
- 状況聴取
- 病院選定 ← この記事
- 病院交渉
- 搬送+継続観察
- 医師引継ぎ
- 引き揚げ
緊急度が非常に高い場面(心肺停止・大量出血など)では、観察・処置と並行して病院選定を進めることがあります。
救急指定病院の区分
搬送先の候補は、基本的に救急指定病院(一次・二次・三次)から選定します。
救急指定病院とは、消防法(第2条第9項)に基づく「救急病院等を定める省令」により、都道府県知事が認定した医療機関です。
指定要件には、救急医療に相当の知識・経験を持つ医師の常時診療従事と、必要な設備(エックス線装置・心電計・輸血輸液設備等)の保有が含まれます。【ガイドライン準拠】(救急病院等を定める省令)
救急医療は、緊急性・重症度から以下の3段階に整理されます。医療計画は医療法(第30条の4第1項)に規定されています。(医療法)
| 区分 | 主な施設 | 対象 | 緊急度目安 |
|---|---|---|---|
| 三次救急 | 高度救命救急センター・救命救急センター | 重症傷病者 | 赤 |
| 二次救急 | 二次救急指定病院・救急告示病院 | 中等症傷病者 | 黄 |
| 一次救急 | 在宅当番医・休日夜間急患センター等 | 軽症傷病者(入院不要) | 緑・白 |
三次救急
緊急度・重症度の高い傷病者を受け入れる病院です。高度救命救急センターや救命救急センターが該当します。
対象になりやすい傷病者の例:
- 心肺停止(CPA)
- ショック状態
- 重症外傷
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
- 急性冠症候群(ACS:不安定狭心症・急性心筋梗塞)
二次救急
入院・手術が必要な中等症〜重症患者を受け入れる病院です。二次救急指定病院や救急告示病院が該当し、病院群輪番制や共同利用型病院方式などで対応します。
三次救急に該当せず、一次救急では完結しない傷病者が主な対象です。
一次救急
一般の外来診療を主に担う救急指定病院です。
以下のような状態の傷病者が候補です:
- 緊急度・重症度が低く、入院が不要と判断できる
- 歩行可能な状態(歩行させて問題ない状態に限る)
- バイタルサインに異常なし
- 対症療法により改善が見込める
例:擦過傷、縫合不要の切創、発熱など
軽症でも不搬送とならない場合(傷病者が搬送を希望する場合等)は、かかりつけを含む一次救急病院が第一選定の候補になることがあります。
病院選定の基本的な考え方
医療機関の選定は、救急現場での緊急度・重症度の判定に基づいて行います。
医療機関選定基準が運用されている地域では、メディカルコントロール協議会などが定めた基準に従います。
そのうえで、一般的に以下の優先順位で考えます。
1. 傷病者の症状に対応できる診療科がある病院
最も基本となる考え方です。必要な専門科・設備がない病院に搬送すると、転院が必要になることがあります。
主な疾患と必要とされる診療科の例:
| 疑われる疾患 | 必要とされる診療科・設備 |
|---|---|
| 急性心筋梗塞(AMI)疑い | 循環器内科・PCI対応可能 |
| 脳卒中疑い | 脳神経外科または神経内科・CT/MRI |
| 重症外傷 | 外科・整形外科・手術室 |
| 急性腹症疑い | 外科・CT・手術室 |
| 小児 | 小児科・小児救急対応 |
| 産科救急 | 産婦人科・分娩対応 |
2. 搬送時間
症状によっては、治療開始までの時間が予後に影響します。
対応できる病院が複数ある場合は、より近い病院を優先します。ただし、搬送時間の目安は傷病者の状態や地域の医療資源配置によって異なります。
3. 受け入れ可否
手術中・ベッド満床・専門医不在などで、受け入れが難しい場合があります。
受け入れ可否の確認は、病院選定後の病院交渉(STEP 7)で行います。交渉が難航した場合に備え、第一候補だけでなく2〜3病院を並行して想定しておくと、切り替えの判断がスムーズです。
4. 本人・家族の希望
可能な範囲で、かかりつけ病院や家族の希望を考慮します。
ただし、傷病者の状態に合った医療機関への搬送を優先する場面では、必要な医療設備・対応可能な診療科など選定理由を具体的に伝え、希望に応えられないことを家族に説明します。
選定時に考慮する要素
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 主訴・疑われる疾患 | 必要な診療科・設備を判断する基本情報 |
| 重症度・緊急度 | 一次・二次・三次の区分選定に影響 |
| 搬送時間 | 特に時間依存性の高い疾患で重要 |
| 専門医の在院状況 | 夜間・休日は不在の場合があることを考慮 |
| 特殊設備の有無 | PCI・tPA・手術室・NICU等 |
| かかりつけ病院 | 既往歴・内服情報の共有が容易 |
| 受け入れ可否 | 応需状況の確認(病院交渉で実施) |
疾患別の搬送先の目安
以下はあくまで一般的な考え方の整理であり、地域の医療資源・所属機関のプロトコルによって異なります。
心肺停止(CPA)
三次救急医療機関(救命救急センター)を中心に選定します。搬送時間の短縮を優先します。
急性心筋梗塞(AMI)疑い
循環器内科があり、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)に対応できる病院が候補です。
心筋梗塞は発症から治療開始までの時間が予後に影響します。対応可能な病院の中で、より近い施設を優先します。
脳卒中(脳梗塞・脳出血)疑い
脳神経外科または神経内科があり、CT/MRIが整備された病院、または脳卒中センター(SCU)が候補です。
脳梗塞では、tPA(血栓溶解療法)に発症からの時間制限があります。発症時刻の確認が、選定の判断に影響します。
重症外傷
外科・整形外科・CT・手術室を備えた病院、または外傷センターが候補です。多発外傷の可能性がある場合は、三次救急へ搬送します。
小児
小児科・小児救急に対応できる病院が候補です。重症の場合は、小児救命救急センターを検討します。
産科救急
産婦人科があり、分娩に対応できる病院が基本です。ハイリスク妊婦の場合は、NICU(新生児集中治療室)の有無も確認します。
病院リストの活用
多くの消防本部では、管轄内の医療機関情報をまとめた病院リスト(搬送先医療機関リスト)を整備しています。
主に記載されている情報の例:
- 病院名・住所・電話番号
- 診療科・専門医の在院時間帯
- 特殊設備の有無(PCI・tPA対応・CT・MRI・手術室・NICU等)
- 救急受け入れ可能時間帯
病院選定の際は、このリストから傷病者の状態に合った候補を絞り込み、病院交渉(STEP 7)へ進みます。
参考:実践例
例1:70歳男性・胸痛
- バイタル:BP 130/80、HR 90、SpO2 98%
- 症状:胸部の締め付けるような痛み・冷汗あり
- 12誘導心電図:ST上昇を確認
疑われる疾患:急性心筋梗塞(AMI) → PCIに対応できる循環器専門病院を第一候補として選定します。
例2:65歳女性・片麻痺・呂律障害
- バイタル:BP 160/90、HR 80、SpO2 99%
- 発症時刻:症状出現から30分
疑われる疾患:脳卒中 → 脳神経外科またはSCU(脳卒中センター)を備えた病院を候補として選定します。tPAの適応有無は医師が判断します。
例3:30歳男性・交通事故
- バイタル:BP 100/60、HR 110、SpO2 96%
- 外傷:右大腿部変形・出血あり
疑われる病態:骨折・ショック → 外傷に対応できる外科・整形外科を備えた病院、または外傷センターを候補とします。
よくある疑問
- 三次か二次か迷ったとき、どう判断すればよいですか?
-
傷病者の緊急度・重症度(バイタルサイン・意識・外傷の程度など)を基準にします。「ショック状態や心肺停止に近い状態」「二次救急の対応範囲を超える可能性がある」と判断した場合は、三次を候補とします。迷う場合は上位の病院区分を選ぶのが安全側の判断です。
- かかりつけ病院が遠方の場合でも搬送すべきですか?
-
傷病者の状態に合った医療機関への搬送が基本です。緊急度が高い場合は、近隣の対応可能な病院を優先し、その旨を家族に説明します。所属機関のプロトコルに従って判断してください。
- 専門病院が満床で受け入れ不可となった場合はどうしますか?
-
次の候補病院へのコールに移ります。搬送困難事案の移行基準・コーディネーター連絡の手順については、所属機関のプロトコルを確認してください(詳細は病院交渉の記事参照)。
まとめ
- 病院選定の基本:「傷病者の症状に対応できる診療科・設備がある病院」を基本に、搬送時間・受け入れ可否・家族希望を合わせて考慮する
- 病院区分:一次(軽症)・二次(中等症〜入院)・三次(重症・高度)の3段階
- 選定の流れ:観察・聴取結果 → 疾患の推測 → 必要な診療科・設備の特定 → 病院リストから候補絞り込み → 病院交渉へ
- 時間依存性の高い疾患:心筋梗塞・脳梗塞・重症外傷は搬送時間が予後に影響するため、距離も重要な選定要素
- 判断基準:所属機関のプロトコルが最優先
実際の搬送先判断・優先順位は所属機関のプロトコルを確認してください。
参考資料
- PEMECガイドブック2023(日本臨床救急医学会)
- 救急救命士標準テキスト/救急標準テキスト
- 救急病院等を定める省令(e-Gov 法令検索)
- 医療法(e-Gov 法令検索)

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